縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜

まるで探偵のように、加瀬君をマークするも、加瀬くんを見ている限り、特に普段と違うことは何もなさそうだった。

いつも通り、女子みんなに優しくて、よく気が利いて、ノリもいいから男子からの人気もある。

勉強だってそこそこできるし。


運動も得意で、サッカーの授業では結構活躍してた。
でも、部活には入ってないんだよね。

つくづく思うけど、悩みなんてあるのかね、彼に。

加瀬君のようになりたいって、思う男子絶対いるよね。ゴロゴロいるよね。

どうすればこんなスマートな人間になれるのか、弟子入りしたいぐらいだ。


ある意味、熱い視線を送りつつ、彼の充実した眩しい青春時代を私は目に焼き付けただけの、1日だった。


「はて、一体何がおこるというの。大体、私が助けなきゃいけないような状況に加瀬君がなるとは思えないんだけど」


独り言、言っちゃった。


駅へと向かっている途中。

見覚えのある顔をみかけた。


とっさに身を隠す。

忍者か、探偵か。今日の私は忙しい。


顔を確認中…


「理仁・・・?」

近くのお金持ちが多いと噂の、私立高校の制服を着た理仁は、髪の長い化粧の濃い女子と手をつないでいた。


「ちょっと。マジで、浮気してたの・・・あいつ」


在花の泣き顔を思い出す。

あんなにしおれちゃうほど落ち込んでる間に、デートか!


「あいつ・・・」

めらめらと、闘魂が燃え始め、闘牛のように勢いよく、狙いの先理仁に向かって行こうとした瞬間。


「おおっ・・・」

背後から声がした。


走り出すタイミングを逃し、振り返ると、加瀬君がいた。

隣には陽色がいる。


「な、なに。どうしたの?」

思わず片言なしゃべり方になる私を、


「何は、こっちだよ。何してんの?」

加瀬君が固まった。

目線は私の向こう。思わず振り向いた。


理仁と化粧の濃い女はキスをしているではないか。


白昼堂々、なんて奴…

許せぬ…


行き荒く、理仁どう仕留めてやろうか頭の中張り巡らせている間中、ずっとキスしてんですけど。

長い、長すぎる。

しかも、深い、深いやつではないか。


人がキスしてるところを生で見るのは初めてで、生々しくて…

私は石のように固まってしまった。


なんていうの…そう、テレビで見るのと違う。


胸の奥から名前のわからない感情が湧きだしてくる。

もやもやするようなちょっと吐き気がするような。
ドキドキして、足が震えた。


文句を言ってやりたいのに、私は動くことも声を発することもできなかった。