縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜

「そういえば、加瀬君と陽色は友達なの?」

陽色の動きが止まる。

「なんで?」

「いや、教室じゃあまりしゃべらなかったじゃない?最近まで仲いいこと知らなかったし」

陽色は黙ったまま。


聞いちゃいけないことだったのかな、と思わせるような陽色の態度に、私は慌てて、

「いや、言いたくないなら別にいいんだよ、答えなくて」

陽色の顔色を見た。


陽色は何かを迷っているような躊躇しているような、そんな感じだった。



「幼馴染なんだよ。でも、俺が小5の時親の転勤でアメリカに行くことになって。それからずっと会ってなくて高校入学したときに再会したんだ」


よそよそしさはそのせい?

それだけではないような・・・

でも、これ以上は突っ込んではいけないのだろう、そう思った私は加瀬くんの話題は終わりにした。


「そうなんだね。アメリカで暮らしてたの?びっくり」


本当に驚いたけど、思わず大げさに反応してみた。


「そう?」

テンション上げようとする私と陽色の温度差はどうやら違ったみたい。

そっけなく返された。


陽色のこと、最初はガリ勉で教科書とお友達で、前髪やたら長いし…

独自の世界で暮らしてそうな、絶対オシャレとかスポーツとかに興味がなさそうで。

勝手に、私のものさしで冴えない人、って決めつけてた。


それは陽色の中のほんの一部であって、いろんな陽色がいることを今は知っているし、まだ知らないこともたくさんある。

誰もがそうなのかもしれない。

私が見えているもの、知っていることなんて、きっと一部でしかない。



「加瀬君、何か悩みとかあるのかな・・・」


どうして5円玉を覗いたとき、加瀬君が見えたのだろう。

加瀬君になにが起ろうとしているのだろう。

ぼんやり考えながら歩いていると、陽色の腕と私の腕がぶつかった。


「あ、ごめん…」

慌てて離れると、

眼鏡越しに、陽色と目が合った。

戸惑う私に、

「晴輝になんかあったら教えてよ」

そう言うと、向かい側からクラスの女子が歩いて来たタイミングで陽色は私からすっと離れた。


私が最初、学校のみんなに陽色と関わってること知られたくなくて陽色に誰にも言うなとか・・・ひどいこと言っちゃってたから。


でも、もういいのに。陽色ともう少し話がしたいのに・・・


陽色の後ろ姿を見ながら少し胸が締め付けられる感じがした。