「乃々夏ちゃん、ありがとう」

愛紗が嬉しそうに、丁寧にお礼を言ってくれた。


キラキラした瞳でみつめられると私までドキッてなるよ。女子にまでこんな顔するんだよ?計算なわけない。

なんでみんなわからないのかな・・・

でも、もしかすると真実はどうなのか、本心はどうなのか、そこは重要じゃないのかもしれない。

むしろみんなにしてみたら、計算であって欲しいのかも。


周りの女子の顔を見渡した。


愛紗に視線を戻して、


「大丈夫?腕」


そう尋ねると、愛紗が小さくうなずいた。

二人、ほっこりしていると、

「ねえ、乃々夏。愛紗と友達なんだ?知らなかったんだけど」

衣織が意地悪そうな顔で見ている。


魔女のようだ、本当に怖い。
ヤンキーより怖い。


「そうだけど…なにか?」


なるべく笑顔で、と意識して余計にひきつる私に、


「は?まじで言ってる?」

かなり威圧的に聞き返された。

鼻息も少々荒くなっている。


「よくこんな女と友達になれるよね」

鼻で笑う衣織の顔、全然かわいくない。

人のこと悪く言ってる時、こんな顔になるのか。気をつけなきゃ。

衣織のことをここまで冷静に見られたのは初めてかもしれない。


衣織の勢いに押されていた体制を整えて、衣織をまっすぐ見た。


「愛紗は『こんな女』じゃない。むしろ、こんなにかわいい女だよ」

「は?」

衣織のバカにしたような顔。

凛子は何も言わず、ただ黙って見てる。


私は一呼吸おいて、なるべく冷静に声を出した。


「『こんな女』は衣織ちゃんでしょ?愛紗が何をしても文句言うつもりでしょ?今の衣織ちゃんは全然かわいくないしきれいじゃない」


衣織はもう爆発寸前で震えているけど、私はもう、そこには戻れない。

凛子がさっきまでの私みたいで、ちょっと笑えた。


「守るべきもの、間違わないようにね」

凛子に言うと、凛子は黙ったまま動かなかった。


そのあとは先生が教室に入ってきたので空気はリセットされ、何事もなかったように時間が流れた。


ただ、愛紗と初めてお昼ごはんを食べたのが今までと違うところだった。


グラウンド脇のベンチに腰掛けて愛紗とお弁当を広げていると、頭に何か触れた。


「かっこいいじゃん、見直した」


通りすがりに陽色が頭を撫でていった。


「ちょ、ちょっと・・・」

言い返す間もなく陽色が去って行ってしまった。


「乃々夏ちゃん、顔真っ赤」


愛紗が笑って、余計に赤くなる。


「赤くないし、あんなガリ勉眼鏡なんかどうでもいいし」


卵焼きを口に入れて、鼻息荒く食べた私を見て、また愛紗が笑った。