教室に戻ると、愛紗の周りに男子がまた近寄ってきていた。


「ね?いいじゃん、ちょっとだけだから、俺らとカラオケ行かない?ね?先輩にも誘うように頼まれててさ、ね?」


愛紗は何も答えない。


「シカトかよ。調子にのってんじゃねえって」

衣織の声がした。


自分の席に戻りながら愛紗を見ていると、男子が愛紗の腕を掴んで、

「あ、じゃあさ、LINE教てよ。今日無理ならせめてさ、いいじゃん、ね?」

強引に話を持っていく。



「無理です、カラオケにも行かないし、LINEも教えない」


愛紗は無表情のまま答えた。


あ、すごい。

昨日言ってたことちゃんと実行に移してる。

愛紗が拒んでも、男子は引き下がらない。


「そんなこと言わずにさ、ね?」


男子が強引に愛紗の腕をつかんだ。


「痛・・・」


愛紗が顔をゆがめた。

昨日あざになっていたところだ。


「何?大げさ」

誰かが笑う声。


鼓動が大きくなる。
鼻息も荒くなる。

猛獣にでもなった気分だ。


私は愛紗の席へと早足で歩いて行った。


「何?」

「どうしたの?」

周りの席の子が、次々と私の顔を見上げていく。


私はまっすぐ愛紗だけを見て突き進んでゆく。


愛紗の席の前で止まって、息を吸い込んだ。


「しつこい!」

私は愛紗の腕を掴む男子の手を掴み、愛紗の腕から引きはがした。


「あのね、無理なものは無理なの。さっきから見てたけど。往生際悪すぎて、ダサいから」


男子の顔がみるみる赤くなっていく。

それでもプライドを保ちたい彼は、顔で威嚇する。


「なんだよ、お前。関係ないだろ?」


うっとおしそうに顔をしかめる。

だから?

私は顔色一つ変えない。


そんなことでは引き下がらないわよ?


昨日のヤンキー臭強めな彼のおかげでだいぶ免疫ついたみたい、私。


私も顎を少し上げて、奴を見下ろした。


「は?私達、友達だし。関係あんの」

堂々と、言ってのけた。


クラスメイトのざわざわする声が聞こえてくる。

もう、ここまで来たら動じないわよ。

奴の顔をさらににらんで、

「どっちかっていうと、あんたが関係ないでしょ?あっち言ってよ、今からガールズトークすんだから。邪魔しないでく・れ・る?」


少し顔を傾けると、真っ赤な顔をした男子は椅子を乱暴にしまって立ち去って行こうとした。

その時。


「おい。ちょっと離れた隙に俺の椅子に座ってんじゃねえよ。そんなに俺のこと好きなのか?」

加瀬晴輝が声をかけて教室内に笑いが起こった。