真木陽色のもとに学年でもそこそこ目立つチャラそうな加瀬晴輝が近寄って行き、すれ違いざま何か言ったように見えた。


真木陽色が口元だけで笑った・・・


誰も気づいてない。


でも、確かに、今二人は会話を交わした。

仲良さげな雰囲気を感じ取ることが容易だった。


ふだん一緒にいるところさえ見たことがないけど。

あの数秒間のやりとりで、真木陽色のあの表情。

あれは慣れた間柄じゃないと不可能だ。


本当のがり勉はあんな風に笑わない。たぶん。

本当のがり勉を知らないから、ただの憶測だけど。



真木陽色・・・何者?


体育館へ戻りながらなんだか胸がざわざわするのを感じた。


「ちょっと、乃々夏始まってるよ?こっちこっち」

凛子が手招きをして、私はまたへらへらしながら小走りでコートに入った。


元バレー部の衣織が当たると痛そうなサーブを打つ。

同じチームで良かったと思いながらボールを目で追う。


さっきの真木陽色の残像が消えない。

ぼんやりしていたら案の定ボールを顔面にくらって鼻血が出た。