「うーん…」

鏡の前で日焼け止めとリップを塗ってみたけど、やっぱり物足りない。


つけまつげまではさすがに…って躊躇するけど。

ちょっとくらい…



「何?どうしたの?」

今度は、後ろに在花が半開きの目をこすりながら立っている。


「お化粧したいの?」


お化粧する必要がない在花が言うとなんかすっごくすっごく嫌み。

寝起きでこの完成度の高さ。

嫌になるわ。


「べっつに…」

興味ないふりをした。

どうせ私がしたところで、在花みたいになれるわけじゃないし。

すべてにおいてこじんまりとしたつくりの自分の顔が憎い。

と、同時に父が憎い。


ふてくされている私の腕を在花はがしっと掴んで、


「ちょっと、待って…」


引き出しをガチャガチャと漁って出てきたものを手に、


「じっとしてて」


ぐっとまぶたに冷たい金属を押し当てられて、何やら引っ張られる感じ。


「ひいっ…ちょっと、痛い!在花、肉!肉挟んでるよっ」

暴れる私を押さえつけて、次は何かまつげに塗りたくられてる…


「じっとして!プッククク…」


うす目を開けると在花の形相にビクッとなる。

目を見開いて面白いおもちゃでも見つけたような表情で半笑いしている…


ああ、この顔小さい頃によく見たな。

油性ペンで口ひげを書かれた時も、眉毛を繋げられた時も、おデコに肉って…書れた日も、こんな顔だった。


今私どんな仕打ちにあっているんだ…?


「できた!」


恐る恐る目を開けると、


「ん?」

何も変わってない…


鏡に顔を寄せて目をこらすと、何だか少しいつもと違うような…


「あ、まつげがちょっと伸びて…る?」


首を傾げた時には在花はもうトイレに入っていなかった。