「俺、そろそろ帰ります」

真木陽色が席を立とうとすると、在花が不満そうな声を上げる。


「ええ…もうちょっと、いいでしょ?」

引き止め始めた。


「夕飯も食べてってよ」

子どもみたいな人だから、自分の気持ちだけでなんでも言っちゃえる人。

家族や周りにいる人からすると困った人ではあるものの、時々うらやましくなるのも本当。


引き止める在花の腕を掴んで、

「真木くんも色々都合あるでしょ、困らせちゃだめだよ」


在花をなだめながら目で真木陽色に合図する。


在花に付き合っていたら朝まで帰れなくなるよ。


「でも、恩人だよ?もっともてなしたいじゃん」


ぷりぷりする在花を、まあまあとなだめながら真木陽色を玄関へと促す。


真木陽色も鞄を持って、そそくさと玄関へ向かう。


よし、さっさと帰んな!

大きなペット(姉)を脇に抱えて、勇ましく頷く私。

そんな私の脇から姉が一言。


「じゃあ、せめて...妹が駅までお送りします」


「は?」

在花を見ると、嫌みかと思うくらい大きな瞳ですごい威圧感をかもし出してきた。


しばらく無言で応戦してみたけど、この目力のパワーは半端ない。


「わ、わかったわよ・・・」

なんで私が・・・


危うく舌打ちしそうになったけど、我慢した。


「あ、大丈夫ですよ。俺、道わかるんで」

眼鏡を指で押し上げながら真木陽色が言った。


お、気が効くじゃん。真木陽色のくせに。

「ほんと?じゃ・・・」

靴を履くのをやめようとした瞬間、背後から殺気が・・・


「うん…でも一応駅まで」


真木陽色に近づいてそっと小声で伝える。

「うちのお姉ちゃん、言い出すと聞かないの」

私の言葉に小さくうなずく真木陽色。

あら、意外と察しがいい。