真木陽色なんて、眼中にもないし大体話さえしたことがない。

そもそも顔もよく思い出せない。黒縁メガネと教科書がセットになったシルエットしか思い出せない。

そんな人がなぜ5円玉越しに見えたのか…


理由はよくわからないけど、この5円玉は持ち帰ることにした。


好きな人が見えた、とかならまだしも…

無関心な人が見えたとなると、なぜだか逆に気になるような。


真木陽色は、成績が学年でもかなりいいはずで…運動は…?仲のいい人は?部活は?


本当に、彼のこと何も知らない…


同じクラスにいても、全然わからない。
思い出せない。

毎日、同じ空間にいるはずなのに…こんなにもわからないなんて。

私、凛子達にどれだけ必死だったんだろう。


今日のやり取りを思い出して、自分ってかわいそうな奴だな…なんて思いかけて首を振った。

虚しい気持ちで5円玉を握りしめる私に、風が吹いた。