差し出された手を掴んで、陽色に誘導されながら歩いていく。


この手もあの頃より大きくてたくましく感じる。


あの頃は、繋ぐ度にドキドキしてたけど。

今はパズルみたいにきれいにはまる感じ。


見慣れた後ろ姿も、頼りがいがあるような安心感。

ずっと、陽色だけ見ていた。

あの時から、陽色と一緒にる時間を守ってきた。



「着いたよ」

陽色の声で見上げると・・・

「ここ学校じゃない」


陽色に連れられてきたのは私たちが通っていた高校。


「覚えてる?裏庭に埋めた・・・」


「5円玉?」


陽色は私の顔を見て、にっこり笑った。


記憶が一気に蘇ってきた。


「裏庭の・・・花壇の横」


二人の声がそろった。


休日の学校には部活の掛け声が響いている。
吹奏楽部の演奏が響き渡り、当時に戻ったかのような不思議な感覚に陥った。


花壇の横。

座り込んだ私達は、

「掘るぞ」


陽色のかけ声で掘り始めた。


しかし、掘っても掘っても出て来ない。


「本当に、あるよね…」


「たぶん…」


なかなか出てこず不安になる。


暫く掘り進めていくと、なにか硬い物に当たった。


「なんか当たった、硬い物があるよ」

思わず大きな声が出る。


「どこ?」

陽色が一気に掘っていくと…


「これ?あった!」


陽色が土の中から缶の入れ物を取り出した。

もともと海外のお土産にもらった缶だった入れ物は、今見ると中々おしゃれで、記憶よりずっと色褪せていた。そして、なぜか緑だと思い込んでいたけど、オレンジ色だった。


「開けるよ?」


そっと開けると、


「あ・・・」


古くなった5円玉がそこにあった。


「くすんでる。もっとピカピカだったよね?」

8年もここで眠らされていた5円玉も、時を刻んでいたようだ。


「今見たら何が見えるんだろうね」

顔を見合わせて、頷いた。


5円玉をそっと取り出すとひんやり冷たい。


なんだか緊張や期待もあり、不安も少し。

5円玉はまた何か見せてくれるだろうか…


2人同時に穴を覗いた。

衝撃が走る。


「え?これって・・・まさか!」


陽色の顔を見ると、陽色も目をまん丸にして私を見ている。

陽色の顔がゆがむ。

思わず涙がこぼれた。


穴の中に見えた存在に、心が震えた。


根拠なんてないけど、わかった。
私達には、それがどんな存在か。


間違いないと、確信した。


陽色はまた5円玉を覗いて、今度はニヤけている。


「なぁ、乃々夏。この5円玉、5円玉じゃないよ?」


「え?」


陽色の隣で目を凝らして5円玉を見ると、


「あれ?御縁玉・・・⁉」


その文字に、

「確かに」

声が揃って顔を見合わせて、笑った。


「この御縁玉が今日も導いてくれたってわけか…」

陽色は私の方に体を向けた。


「乃々夏に、渡したいものがあるんだ」


そう言って、陽色がポケットに突っ込んだ手を、そっと出した。

その手にあるのは、きらりと光る指輪だった。


私、また泣いちゃってるし。

手、泥だらけだし…


「乃々夏、結婚してください。乃々夏にはずっと隣にいてほしい。さっきの御縁玉に映ったあの子にも早く会いたい」


声にならない、「はい」を泣きながら頷いて伝える私の指にそっと指を入れてくれた。


「ありがと」

抱き寄せられた陽色の腕の中は温かかった。

何度抱きしめられても、嬉しくってにやけちゃう。



「早く会いたいね」

私の言葉に陽色が大きく頷いた。


無邪気な陽色の笑顔が、やっぱり大好きだなぁ。

陽色のいろんなとこ似て欲しいけど、この笑顔は一番似て欲しいかな…