ノラネコだって、夢くらいみる

「恋に溺れるなよ」

「………だれが、溺れるか。恋人になる気ないし」

「キスしてたのに?」

___!!

 やっぱり……見られてたんだ。そうかも、とは思っていたけれど。

「あれは、いちるがふざけて……」

「お前が隙だらけだから、悪い」

 なっ……なにそれ…!

「今だって、こんなおっさんと2人きりで、こんな近くにいること自体、ヤバイぞ」

 あなたがおいでって呼んだんじゃない……!

「いちるもいるでしょ、あっちの部屋に」

「お前、俺のこと信用しきってるのか?」

「別にそういうわけじゃ…」

「なら、俺にどうにかされたい?」

「………は?」

「期待してる?このまま押し倒してくれないかって」

「バカなの!?」

「黒猫……」

 な、なに?逢阪が、私のことを、じっと見つめてくる。

 え?……ええ??

「そういうのは、大人になってからな」

 !?

「し、しなくていいっ!何かしてきたら本気で軽蔑する!」

「………」

「恋なんてしない。溺れもしない。ちゃんと働く。やれるだけのことやる。それでいいでしょ」

「ああ。もちろん」

「私、帰る。今度こそ、本当に」

「気をつけてな」

 ……もう、止めないんだ。

「じゃあね」

「失礼します逢阪社長、だろ。ったく、お前ってやつは」

 逢阪は、口調とは裏腹に、なんだか嬉しそうな顔をしていた。