いちるは黙ってしまったので、それからは無言で食事のあと片付けを続けた。

 片付け終えてリビングのソファに2人してかけたその時、ふと、掛け時計に目がいく。

 文字盤の数字が独特な丸みを帯びたフォントでお洒落なその時計の針がさす時刻をみて、驚く。

「もうこんな時間だったんだ」

 テレビ画面にはいちるがさっきプレイしていたゲーム映像が映し出されている。

「まだ20時だよ」

 やっといちるが喋った。

 いやいや20時に出歩くなんてこと、めったにない。

 モモと遊園地に行った日はそれなりに帰りが遅くなったけれど、あれは特別だ。

「そろそろ帰る。ご飯、ありがとう」

「明日休みなんだから、ゆっくりして行きなよ」

「………」

 いちるは、こっちを見ずに静かに呟いた。

「鈴が帰ったら、寂しい」

 いちるの家族は、遠くに住んでるのかな。実家どこにあるんだろう。

 今日みたいに誰かを呼びつけることはよくあるのかな。逢阪はここに入り浸っていたりするのだろうか……

 なんて、素朴な疑問が次々と浮かんできたものの、いくら一緒に仕事をすることになったからって、プライベートな質問をどこまでしていいものかわからない。

 どうすればいいんだ、この状況。

 帰ったら寂しい、なんて言われても……

「そうだ、鈴。いいこと思いついた」

「なに?」

「今日は泊まっていきなよ」

 ………え?

「それがいいよ。それで、明日とか、明後日に帰ればいいじゃん」

 ファッ!?

「無理!」

「なんで?」

 なんで……って……

「誰かの家に泊まるなんて、したことないもん」

「家の人に怒られる?」

「んー……どうかな…」

「聞いてみて大丈夫だったら、オールしよ。朝までゲーム」

 ………どうせいつも金曜日は遅くまで起きてるんだ。
 
 それからおばあちゃんに電話したら、めちゃくちゃ心配されたけれど、了承してくれた。

 社長さんと先輩によろしく、なんて言われた。

 逢阪……戻ってくるのかな?