ノラネコだって、夢くらいみる

「今のは、普通、キスされるって思うとこでしょ」

「……なにそれ。少女漫画でしかありえないシチュエーション」

「本気で言ってるの?」

 そう言うと、いちるはまた私に近づいてくる。

「ちょ、いちる……?」

「体感してみる?」

「なにを……?」

「リアルで少女漫画のシチュエーション」

 …………はい?

「しない。……離れて」

「やだ」

 やだ、じゃないよ。

 もういい、押し退けてやる。

 いちるの両肩に手を当てて、あっちに行って、と私から離そうとした瞬間。

 …………!

 それは___突然すぎる出来事だった。

 RPGゲームで例えるならば、今私は、あたりにいるのがザコキャラだらけのMAPで余裕をぶっこいていたんだ。

 ところがそこに、突如現れたボス級の敵が現れた。

 一撃でHPを0にされ……目の前が真っ暗になるパターン。

 セーブしたところから、やり直しできるのは、ゲームのセカイだけ。

 ………これは、ゲームじゃない。

 現実で起きたことは、リセットなどできない。

 つまり、今、私の唇に、柔らかい何かがあたっているといる事実は、決して取り消せないのである___