ノラネコだって、夢くらいみる

 しかし__いちるのマンション、でかいな。

 タワーマンションってやつ?20階…いや、30階はありそう。

 一人暮らしって聞いてたけど。それにしては贅沢すぎない…?
 
「いらっしゃい」

 出迎えてくれたいちるは、上は黒いTシャツ、下はグレーのスウェットをゆったり着ている。

 いつもの雰囲気とはまた違うけれど、いかんせん美形なもので、そんな格好をしていても華やかだ。

「………おじゃまします」

___洗練された空間。

 それが、いちるの部屋に入った時の印象。

 最低限必要なもの……ソファやテレビやダイニングテーブル。そういったもの以外、ほとんど置いていない。

 ラックがあって、そこにコンポと観葉植物が飾ってあるくらい。

 玄関においては、革靴1足しか見当たらなかった。多分、逢阪のものだ。

 自分のものは、全て靴箱にしまってあるのだろう。

「社長は奥で寝てる」

「いちるに駅まで来てもらえばよかった」

「行かないよ、僕は」

 薄情なやつ。

「したくても、できない。やらない方がいい」

「え?」

「僕と鈴が一緒に駅からこのマンションに向かえば、誰かに見られるかもしれないでしょ?」

「………?」

 誰かに…見られる……って……

「スキャンダルは御法度(ごはっと)って、社長に言われてるから」

「ああ、そっか」

 いちるは、女の子に人気あるんだから、勘違いでもされたら大変。