ノラネコだって、夢くらいみる

 持ってきたのは、スマホ、鏡、ハンカチ、ティッシュ……以上。

 女の子だったらもう少し荷物が増えそうなものだけれど、私はこれで十分事足りるあたり、女子力が低いと身にしみる。

 メイクポーチ……作るべき?

 撮影があった日、初めてちゃんとメイクしてもらって、メイク一つでこうも印象が変わるのだなと実感したっけ。

 ひょっとすれば、この生意気な顔も、メイク次第ではもう少し柔らかいイメージになるのかもしれない。

 センセイに聞けば、やり方くらいすぐに教えてくれるだろう。

 上手くできるようになるには、時間がかかるだろうけど…。

 そんなことを考えている間に、私の乗り込んだ電車は、いちるの住むマンションの最寄り駅に到着した。

 タクシーで来いとか言われたが、そんな贅沢な乗り物には乗るわけがない。

 スマホにいちるの住所を打ち込んで、その地図を頼りに家を探す。

 ……ん?北って、どっち?


___ピロン♪

【いちる】鈴、今どこー?


 そんなの私が聞きたい。


【黒川鈴】ナビ使ってみる

【いちる】え?なにしてんの?

【黒川鈴】あなたの家に向かってるんでしょうが

【いちる】運転手さん迷子になったの?


 ………迷子になったのは、私です。

 いちるの住むマンションは、駅からそれほど離れていなかった。

 なのに結局20分くらい駅周辺をウロウロしていた私は、とんでもなく方向音痴である。

 それも仕方ない。自宅周辺と原宿の一部以外、出歩いたためしがないのだから。