ノラネコだって、夢くらいみる

「大きなぬいぐるみを着た人間でもいるんじゃない?」

「ちょっと鈴ちゃん、夢のないこと言わないの!」

 蒸し暑い中、ご苦労様です。

「ねぇ、私たちも行って、記念写真撮ってもらおうよ」

 人だかりの方へ向かいながら、その人物を見て、ハッとした。

___デジャヴだ。

 この間、下校中に似たようなことがあった。

 あの時は、校門の人だかりの中に、逢阪を見つけた。

 今回は………

「うっそぉ……!いちるがいるよ、鈴ちゃん」

 回れ右しようとしたところを、モモに腕をつかまれた。

「どこ行くの?ほら、見て!いちる!」

「知らない」

「有名だよ!CUTEEN!(きゅーてぃーん!)に突如現れた謎の美少年!」

 『CUTEEN!』は、女子中高生向けの人気ファッション雑誌である。

「うわぁ。撮影かなぁ?それとも、デートだったりして〜」

 マネージャーの月山さんの姿はないように見える。

 握手を求める者。サインをねだる者。

 スマホのカメラで写真をお願いする者。

「近づけそうにないね」

 と、この場から退却する気満々の私。しかし…

「あれ?待って!いちる、こっちに来るんだけど!」

 ………やっぱり、デジャヴだ。

「うわぁ、どうしよう。握手してもらえるかな」

 モモが軽くパニックになっている。

 いちるは、私の正面で立ち止まった。

 ……………スルーしてよ。

「奇遇だね、鈴」