ノラネコだって、夢くらいみる

 小林さんはメイク道具をたくさん持っていて、メイクをしていく過程1つ1つを見るのがとても面白く、最初から最後まで見入ってしまった。

 道具の名前はわからない。数種類のクリームやパウダーみたいなものを、何回も重ねて塗っていく意味なんてもっとわからない。

 どうして数ある中からその色を選ぶのだろうとか、私の頭の上には始終クエスチョンマークが浮かんでいた。

 衣装は白くてフリフリなワンピースで、あまり露出をしない私は、肩の大きくあいたそれを着るのが少し恥ずかしかった。
 
 今回のコンセプトを聞いて驚いた。

___〝舞い降りた天使〟

 いちるはともかく、私まで、天使役だったのだ。

 こんな漆黒の髪色をした天使がどこにいる。堕天使の間違いだろう?と思っていたら、頭にはウィッグを被せられた。

 白金のふわふわヘア。染めてみたい、染めるなら限界まで明るくしてみたい願望のあった私は、ここでかなりテンションがあがった。

 衣装や髪、スタジオのセットの至るところに、天使を象徴する〝羽〟がちりばめられていた。

 撮影はずっと、いちるとセットで進んでいく。

 オッケーが出たあと、私をはずして単体でいちるが撮られている間、その様子を眺めていた。

 いちるも上下白の衣装を着ている。白い肌に神秘的な雰囲気、中性的な顔立ち、2次元から飛び出してきたような容姿のいちるだからこそ、着こなせている気がした。

 あらゆることが流れるように過ぎていき、あっという間に終わってしまった。