ノラネコだって、夢くらいみる

 ウソでしょ……?いちると仕事するの?

 運転手さんは、無口。フチのない眼鏡をかけた、30代くらいの人。

「その人。僕たちのマネージャーだから」

 僕……たち?

「月山彰(つきやまあきら)といいます。お見知りおき下さい」

 ミラー越しに目が合った。キレ長の鋭い目。この人も、相当なイケメン。

 月山彰……芸能人みたいな綺麗な名前。

「僕のマネージャーなんだけどね。しばらく一緒にいる鈴のことも世話することになったんだ」

 なるほど。

「時間もありませんので、手短にお伝えしますね。これから都内のあるスタジオで、撮影があります」

 撮影!?

「現場に着いたら細かい説明がありますので、それぞれスタッフの指示に従って臨機応変にお願いします。以上」

 以上、って……ほんとに手短かすぎる。

「大丈夫だよ、鈴」

 と、いちる。何が大丈夫なの?

「逢阪社長は、できない人にはやれって言わないから。一緒に頑張ろうね」

 クールでミステリアスと言われている割に、とても柔らかい雰囲気の人だなと思った。いちるは私に、とても優しく笑いかけてくれた。


 それから私は月山さんに案内されて、都内の某スタジオに入って行く。

 メイク担当は、スタジオ見学の時にいた、女口調のイケメンさんだった。

「あなた、この前会ったわよね。たっちゃんの隠し子」

 誰が隠し子だ。

「こんにちは。黒川鈴です」

「小林よ、よろしくね。鈴ちゃんは、赤ちゃんみたいな肌ね。すりすりしたいわ」

 ………鳥肌がたったのは内緒だ。