ノラネコだって、夢くらいみる

「お待ちしていました、黒川鈴さん」

 やっぱり。その車の前に立っていた、黒いスーツを着た男は、逢阪の指示で私を迎えにきた人だった。

 後部座席のドアをあけられたので、そこに乗り込む。

「は、はやく出してっ……」

 目立って仕方ない___って……えぇ!?

「やあ、鈴。学校お疲れ様」

 奥、つまり私の隣の席に人がいた。

 逢阪に連れられていったスタジオで見かけた、イケメンモデル。

 後部座席の窓はスモークになっているため、外からこちらの様子を伺うことはできない。

 もしこれが透明ガラスで、この車にいちるが乗っているとバレたら、大騒ぎになるのではないだろうか。

 と、いうのも__

「いちる。年齢不詳。突如ティーン向けファッション雑誌に姿を現した美少年」

「僕はもう、少年って年でもないと思うんだけどなー」

「クールでミステリアスな雰囲気の彼は誰なのか……多くの芸能関係者や読者から問い合わせが殺到、その雑誌は発売翌日には本屋から消える、という社会現象をも引き起こした」

「鈴、それ、ナレーションみたいだね」

「センセイに聞きました」

「鈴の学校の先生は物知りだね」

 ………学校のセンセイでなく、ネット上のセンセイです。

 芸能事情なんかに疎い私は、調べるまでいちるの存在を知らなかった。

 でも、お洒落に興味のある現役中高生の多くが、いちるのことを知っているに違いない。

「どうしてここに?」

 それに、私の名前……

「社長から聞いてないの?今日、一緒に仕事するって」