声をかけてきた男は、グレーのスーツを着ている。

 
「いくつ?芸能界に興味ない?」


 ここ原宿でこの手の連中と遭遇した場合、「スカウトマン」に成り済ました「セールスマン」だと疑ってかかるようにしている。

 デビューをそそのかして養成コースに勧誘されるって話。中には、写真を撮られて悪用されるってケースもあるらしいから、絶望するしかない。

 まぁ、某巨大掲示板の情報がどこまで信用できるかどうかは定かではないのだけれど。


「とりあえず、連絡先交換しない?キミなら売れっ子になれるよ」


 少なくともまともな人間なら、背後から声をかけて、ずかずかと私のパーソナルスペースにこうも侵入してはこないはず。

 愛想もクソもない、この私が、売れっ子?

『バカなこと言わないで。目ん玉腐ってるんじゃないの?』

___喉まで出かかった言葉を、私はなんとか飲み込んだ。

 ……関わらないのが、一番。