ノラネコだって、夢くらいみる

「僕、一度も学校に行ったことがないんだ。小さい頃に受験に失敗して。兄2人は合格した進学校に、僕は受からなかった。そんな僕を恥じて、両親は外に出したがらなかった」

 なっ………

「以来、教育は家で受けた。友達なんていないし、集団生活なんてしたことない」

 そんなことって……

「出来の悪い僕は両親から疎まれてた。そんな僕に唯一優しくしてくれたのが、5つ上の兄だった。たまたま僕は兄に連れ出された日、社長に出逢ったんだ」

「スカウトされたの?」

「そう。それで、家を出た。両親は僕がいらなかった。本名を晒すなって条件で活動を許可してもらえた。……っていうより、家から出てくことに反対する理由なかったんだ。別に住むとこを用意されて、好きに生きればいいって突き放された」

「………」

「仕事を始めると、そこでは自分が必要とされるのがわかった。ずっと家にこもってるより面白かった。女の子にもモテた。あまり人と話すのは得意ではなかったけど、生きてく中で、どうすれば相手が喜ぶか、どうすれば周囲と上手くやってくかを常に意識してるうちに、今の僕にたどり着いた」

 うつむいていたいちるが、こっちを見る。

「だけど、このセカイも僕の居場所じゃないって思った。取り繕うのは楽じゃなかったから。ここまでやってこれたのは、鈴がいたからだよ」

「私?」

「そう。僕より年下なのに、強くて。まっすぐで。僕は鈴に影響されて、仕事を続けられたんだ」

「そんな、私なんて……」

「謙遜しないでよ。鈴は僕に憧れてくれてるかもしれないけど、僕はずっと、鈴に憧れてたんだ」