ノラネコだって、夢くらいみる

「いいよ、わかってたし」

「………」

「わかってて、鈴に迫った」

「いちる……」

「オジさんに飽きたら僕のとこにおいでよね」

「っ……!」

「嘘だよ」

 そう言うと、いちるはニッコリ笑ってコーヒーを一口飲む。フレッシュもシロップも入れない、ブラックコーヒー。

「僕さ、やめようと思ってる」

「え?」

「この仕事」

 ………

「えぇ!?」

 思わず大きな声を出してしまう。が、店内はいちると私の2人だったので誰が驚くこともなく。

 おじいちゃんマスターは静かにカウンターの側に座っていた。

「なんで?」

「人前に出る仕事って、やっぱり向いてないんだよ僕には」

「そんなことっ……いちるは私の目標でもあるのに」

「ここまで来れたのは、ずっと引きこもりだった僕に声をかけてくれた社長のおかげだと思ってる」

 ………!

「僕に世間を知るきっかけをくれたのも。僕がやりたいことを見つけられたのも、あの人のおかげだ」

「いちるのやりたいことって?」

「わからない。まだ、ハッキリとは。でも、学校に行ってみたい」

「え……?」