ノラネコだって、夢くらいみる

 なにそれ。大地と私が疎遠になったのは、モモが変な噂流したからじゃない。

「………私、鈴ちゃんが羨ましかった」

「なんで……?」

 モモは可愛くって。人見知りも全然しなくて。世渡りが上手でしょ?

「いくら取り繕ったところで、私は鈴ちゃんにはなれなかった」

「私に…?」

「言ったでしょ?原宿で、鈴ちゃんが、逢阪に声をかけられているのを見たって。それで、知りたくなった。あなたがどんな人か。知れば知る程自分にはないものを持っていた。だから、壊したくなった」

 そこに、看護師さんに抱えられた赤ちゃんが、戻ってきた。

「心から応援できたら、私たち、友達になれていたかもしれないのにね。この子が私の中に宿った時、最初に、鈴ちゃんを思い浮かべたよ。頑張ってるかな、元気にしてるかなって。後ろめたい気持ちがあったからかな。そんなんで母親になんてなれないって思ったからかも」

「別に、もう、忘れてくれていい。私とのこと。私も、忘れるから」

「元気でね、鈴ちゃん」

「モモもね」

「かげながら……この子と応援してる」

 ………忘れてよ、私のこと。



 帰りのタクシーの中、私は、なんともいえない気分になっていた。生命の誕生に立ち会ったのは初めてだからだろうか。

 モモ、とっても嬉しそうに赤ちゃんんこと見てた。すっかり母親の顔だった。お母さんも、あんな風に私のこと見てくれてたのかな。

 私は、少しして気づくことになる。

 モモに裏切られてから心の中にずっとあった、何かがつっかえていたような感覚が、この瞬間から不思議となくなっていたということに。