「………」

「私、もうすぐお母さんになるの」

「………」

 どうでも良かった。この女のそんな話は、私にとってはどうてもよかった。

 無視して行こうとした瞬間、モモが声をあげた。

「いたいっ………!」

 …………え?

 モモのワンピースからのぞく足下が、濡れているように見える。

「破水しちゃった……かも……」

 ハスイって?

「きゅ、救急車…呼んで……」

 うずくモモ。お腹をかかえてしゃがみこんでしまった。

 そんなモモを見て、慌てて私は救急車を呼ぶ。

 

 それから、何時間たっただろうか。

 子供って、生まれるまでにこんなに時間がかかることだったんだ。知らなかった。

 だけど、どうして私は付き添ってるんだろう。

 どうしてうちのおばあちゃんまで、来てるんだろう。

 モモの家族は?

「大丈夫かな…モモ」

「大丈夫よ。きっと、大丈夫」

 どうして私はおばあちゃんになだめられているんだろう。

「おばあちゃん。私が生まれる時も、お母さん、大変だった?」

「そうねぇ。あなた、予定日になっても生まれないものだから、のんびりさん、なんて言われていたかしらねぇ」

 そうなんだ。お母さんのお腹の中が、心地よかったのかな。それとも、引きこもり気質は、その頃から芽生えていたのだろうか。