ノラネコだって、夢くらいみる

 一瞬の出来事だった。大きな音とともに扉が空いて、目の前に現れたグラサン長身男が、佐伯さんを蹴飛ばした。

「商売道具の顔は外してやった。有り難く思え」

「………!誰だ…!?」

 佐伯さんが、蹴られた脇腹を抑えている。

「お前みたいな青二才に名乗る必要なんてねーよ」


 …………なんで?


「バカ猫。帰るぞ」

 そう言って逢阪は私の手を引いて、ホテルから私を連れ出し、そのまま自分の車の助手席に私を乗せた。

「蹴飛ばして大丈夫だった?相手は、あの佐伯理久だよ?」

「なら、来なくてよかったか?」

「……!よくない!」

「警戒心の薄いやつだな。大人気のイケメン相手に浮かれていたか?」

「そんなことっ……」

「あいつは女好きで有名だろ。ノコノコと着いてけば、こうなることくらいわかれよ」

「いきなり、こんなところに連れてこられるなんて思わなかっただけよ」

「ほんと、ガキだな」

 どうせ私は、ガキだ。あなたの婚約者はきっと、私とは全然違う、大人で綺麗な女性なんでしょうね。

「どうしてここに?どうやって入ってきたの?」

「岡本から、連絡あった」