ノラネコだって、夢くらいみる

 私は、それなりに笑えるようになった。気のきいたことも、前より言えるようになっていた。

 今みたいに私のファンだと言ってくれるのは素直に嬉しかった。

 だけどこんなケースは希で、その多くは……付き合い。

 仕事だから笑う。仕事だから、気のきいたことを言う。

 そんなことの繰り返し。それが大人になっていくことなのかな……なんて、思ったりもした。

「もう一軒どう?」

「………え?」

 2次会かな?と思ってまわりを見渡すも、芦原さんの姿はもうない。他の人もいない。

 いるのは、佐伯さんだけ。いつの間に……?

 きっと私がトイレにたっている間に、解散したんだ。しくじった……!きちんと全員に挨拶ができていない。

 私が困惑していると、店を出てすぐのところに停まっているタクシーに乗せられた。これで帰れってこと?

 って、え…!?佐伯さんが、隣に乗り込んでくる。

 つまり、私は、佐伯さんに個人的に誘ってもらったということ?

 そんなバカな。なんで?


 **


「ここは……?」

 と言いつつ、見たらわかる。ホテルだ。ちょっと高そうな。どうして佐伯さん、こんなとこに連れて来たの?

「この中のレストランの料理、美味しいんだ」

 ああ、なるほど

 と、納得したのも束の間。

 フロントの人から鍵を受け取った佐伯さんに手を引かれ、一緒にエレベーターに乗り込んだ。のぼったその先にある部屋の扉を、慣れた様子で開ける佐伯さん。

 案内されたのは、夜景の見える、広い一室。

 ……まさかここ、ドラマなんかで見たことのある、〝スイートルーム〟とかいうやつ?