ノラネコだって、夢くらいみる

 逢阪の体温が、伝わってくる。シャツから微かに漂ってくる、タバコの香り。

 なんでだろう、私………もっと………

「今、口の中すげー甘いんだけど」

 と、逢阪が囁いた。

「ドーナツ食べたからでしょ」

「鈴はもっと甘いんだろうな」

___グイッ

 大きな手を腰にまわして、抱き寄せられる。

 み、密着しすぎ!息苦しい!ちょっと、逢阪っ……!?

 逢阪の細身だけどほどよく筋肉のついている胸板はまさに男って感じで、私の全然知らないイキモノだった。

 同じ男性でも、いちるに抱きしめられた時とは違っていて……って、そんな話は今はどうでもいい。

「離して……!」

「嫌なら自分から離れてみろよ」

 そんなこと言われったって……力入んないっ……

「本気で嫌だったら俺のこと蹴飛ばしてでも逃げろ。でなきゃ、このまま襲うぞ」

 身体を持ち上げられたと思ったら、次の瞬間にはもう、逢阪は私に覆い被さっていた。さっきまで逆だったのに。

 ウソでしょ……?なんでこんなっ……本気じゃない…よね?

 身長差30cmはある男に押さえつけられているんだ。ちょっとやそっと抵抗したところで、何の意味があるっていうんだろう。

 蹴飛ばす?叫んでみる?いちるが起きて助けに来てくれるかも。