ノラネコだって、夢くらいみる

「は……はぁ?」

「俺の買ってきたドーナツにしっぽをふって喜ぶ黒猫の図」

「あのねぇ、猫は喜ぶと喉を鳴らすの。しっぽふる時は、怒ってる時だから!」

「へぇ。じゃあ今、ガンガン鳴ってんな。喉」

 そういって逢阪が私の喉にそっと触れる。

「な、鳴るか!」

 いつの間にやらシャツのボタンを3つ4つ開け胸元が大きくあいているし、ソファに仰向けにくつろぎ、足をこっちに伸ばしてきた。

 こうしているところを見ると、ここって逢阪の家のリビングだっけ?という錯覚に陥るが、ここは、あくまでいちるの家だ。

「ちょ、足こっちに持ってこないでよ。ってか、消してよね、写真」

「よく撮れてるぞ。送ってやろうか?」

「いらない。さっさと消せっ!」

「嫌なこった」

 寝そべっている逢阪の手からスマホを取ろうとするが、逢阪はひょいとそれをかわす。

「俺から奪い取ろうなんて、100万年はやいぞチビネコ」

 その言葉にイラっとして、逢阪の手のスマホを無理矢理に取ろうとした、その時____ 

 よろっとバランスをくずして、そのまま正面から逢阪にダイブ。どすん、と身体に衝撃が加わる。

「大胆なことするじゃねーか」

「ちがっ……!」

 不可抗力だ。足がもつれて。倒れ込んだその先に、あなたがいただけ。それだけなのに………

 はやくどかなきゃならないのに。脳からの動けという信号は、手足に到達する前に、遮断されているようで。

 身体がいうことを聞いてくれない。動けない。