ノラネコだって、夢くらいみる

 スーツ姿のイケメンが、ド派手なドーナツ片手に寛(くつろ)いでいる構図はなかなかシュールだった。

「これ、どうしたの?差し入れとかで貰ったの?」

「俺が買っちゃ悪いか?」

 え?逢阪が自分で買ったの?

「〝いつも1つ2つしか食べないドーナツを、いつか飽きるくらい食べてみたい〟」

 …………!!

 それ、前に私が雑誌のインタビューで答えてたやつ。たしか質問が『好きな食べ物は?』で、『お寿司とドーナツ』って答えて、その続きがそれだ。
 周りの人たちからグレーテルみたいだねって言われたっけ。たしかにお菓子の家なんてものがあれば、行ってみたい。

「私のために買ってきてくれたの?」

「ここに来てるっていちるから聞いてたから」

 いちるのやつ、いつのまに逢阪とコンタクトとっていたのだろう。

「………バカなの?」

___こんなことが言いたいわけじゃない。

 自分でも呆れるくらい嬉しくて、それを悟られたくなくて、必死にごまかそうとして出た台詞がこれだ。

 せっかく買ってきてくれたのに……。なんで素直に喜べないんだろう。

 気を悪くしたかな?したよね。逢阪の顔が、まともに見れないっ……

「………!?」

 口の中に突然何かを押し込まれる。……あまっ………!!ドーナツだ。

 一度にこんなに食べれるか!!って言いたかったけど、口が塞がっていて話ができない。

 ああもう、もっと味わって食べたいのにっ…!

 やっとの思いで口の中のドーナツを飲み込む。