ノラネコだって、夢くらいみる

「持ってきたけど」

 真っ暗でなにも見えやしない。だから、部屋の入り口を数センチあけて、そこから入ってくる光を頼りに逢阪に近づく。

「サンキュ」

 そう言って逢阪が私の手からグラスを取ると、ぐいっと水を飲み干し、側にあったサイドテーブルへとグラスを置いた。 

「………私、帰る」

「もう帰んの?」

 長居する理由もない。

「今日は、ごちそうさまでした」

「泊まってけばいいのに」

「……ここは、あなたの家じゃないでしょ」

「固いことは言うな。1人でいるよりは気が晴れるだろ?」

「それは……」

「いちるは?」

「Twitterに書き込みするって」

「あいつ、マメだな」

「逢阪の指示なの?」

「あ?」

「最初のファンの弁明。あれを書き込んだの、逢阪の知り合いなの?」

「………だったら?」

「いちる、そのこと知ってたの?」

「いいや。いちるが俺と同じこと考えていたのには驚きだ」

「………」

「あいつ、自分のことだけだったらこんなに必死になってなかっただろうな。全部、お前のためだ」

「………」

「わかってると思うけど。あいつ、相当お前に惚れてるぞ」

「………」

「あの気ままないちるをここまで動かすお前はすごいよ」