ノラネコだって、夢くらいみる

「うん。やる気ないならやめろって言われた」

「ふぅん……社長がそんなことを……」

「モモに裏切られたばかりで凹んでたところに、更に追い打ちをかけられたからね。……仕事人間なのはわかるけど、ほんと怖かった」

 鬼で悪魔で仕事のことになると言葉も選ばない人なんだから。

「でも、頑張ってるって……褒めてくれた。私のこと」

「………」

「いちる?」

 いちるはやっぱり、驚いた顔をしている。

「かなわないな、あの人には」

「え?」

 今度は、呆れた顔をするいちる。

「鈴が持ちこたえられたのは、社長のおかげってこと」

 ………?

「なんで?」

「僕とは違うやり方で、僕よりずっと効果的に責めちゃうんだもんな…あの人は」

 意味わかんない。

「1つ教えてあげるよ。社長は鈴のこと、絶対に捨てない」

「まさか。きっと逢阪は〝去る者追わず〟なスタイルだよ」

 中途半端に仕事を投げ出そうものなら、拳銃を持って『てめぇ俺の顔に泥を塗りやがって』と追いかけてくることはあっても、『逃げないで、俺の側にいてくれよ』なんてキャラではとてもない。

「さっきだって社長、本当は……」

「?」

「……なんでもない」

 話の途中で〝なんでもない〟だなんて、意味深すぎて気になる。

「僕、Twitterに書き込みしておくね。鈴は、少し休んでて。色々あって疲れたでしょ」

「……うん」