ノラネコだって、夢くらいみる

 するといちるが、黙り込んで何か考えている様子。

 いちる……?

「無視されるよりは、アンチでも相手にされる方がまだ、話題性はある。うまくまとまったな。怪我の功名ってやつか」

「社長……鈴が中傷されてるのに、不謹慎です」

「考えてみろよ。それだけ多くのやつがお前らに興味もってるってことだ。嫉妬してるんだ。根も歯もない噂なんて、人気者になれば、あとを立たないさ。それに耐えられる精神がなけりゃ、この世界では続かない」

 もっともだ、と思った。 

「あなたに捨てられるかと思った時の衝撃に比べたら、屁でもない」

 と、私が話している途中で、逢阪は部屋を出て行ってしまった。

「捨てられそうになったの?鈴」

 いちるが、少し驚いた様子でたずねてくる。

「うん。さっきご飯食べてきたんだけど、そこで私弱音吐いちゃって……。やる気ないならやめろって言われた」

「………」

「ほんと、怖かった」

 鬼で悪魔で仕事のことになると言葉も選ばない人なんだから。

「でも、頑張ってるって……褒めてもくれた」

 あの時撫でてもらった頭が、なんだか今でもくすぐったい。

「………」

「いちる?」

 今度は、呆れた顔をするいちる。

「僕とは違うやり方で、僕よりずっと効果的に責めちゃうんだもんな…あの人は」

「なにそれ」

「1つ教えてあげるよ。社長は鈴のこと、絶対に捨てない」

「まさか。きっと逢阪は〝去る者追わず〟なスタイルだよ」

「さっきだって社長、本当は……」

「?」

「……なんでもない」

 話の途中で〝なんでもない〟だなんて、意味深すぎて気になる。

「僕、Twitterに書き込みしておくね。鈴は、少し休んでて。色々あって疲れたでしょ」

「……うん」