【短】ねぇ、こっち向いて。





勉強のことも、風紀のことも、学校のことも、何もかも忘れて俺は走った。


屋上に続く階段を上りきった永井さんの腕を、俺はようやく掴んだ。




「はぁ、はぁ……っ。な、なんで逃げるんですか?」




屋上の一歩手前の踊り場で、永井さんは走り疲れたようにペタン…と座り込んだ。


俺は目線を合わせるようにしゃがみこむ。



こんなにも息が苦しいのに、さっきまでの胸のモヤモヤはだんだんと消えていくようだった。


なぜだろう。どうして、もっと一緒にいたいと思うんだろう。





「じゃあ、なんで追いかけてきたの?」





質問を質問で返され、俺は言葉をなくす。



……そんなの、俺だって知りたい。


自分のことなのに、わからないんだ。



どうして君を追いかけたのか。追いかけたくなったのか。