2年後、私は15歳の誕生日を迎えた。

あれから一切、あの沈没船には近づいていない。

魔女の事も、思い出さないように努力した。

そのおかげで、今は魔女の言ったことなんて覚えていない。

姉達は大人になり、海の上の世界へ出かけることもしばしばあった。

両親の仕事を手伝っているようだ。

私も、今日からその仲間に入れる。

期待に胸が膨らんだ。

母に呼ばれ、髪飾りを置いて部屋を出た。

母は相変わらず綺麗で、姉達は、よりいっそう綺麗になった。

母はいつもの椅子に座って、私を待っていた。

「お母様!」

「お誕生日おめでとう、リン。」

「お話って何?」

「…リン、海の上は楽しみ?」

突然、母が真面目な表情になった。

「?もちろん。」

「…そうよね。カレンも、マリアも、同じことを言ったわ。

ちょうど、貴方のような瞳で。」

憂いを帯びた、姉と同じ瞳の色。

疑問に思って、その瞳を見つめ返す。

「お母様…?」

母は、ふわりと微笑んだ。

「いいえ。何でもないわ。

楽しんできなさい。

きっといい思い出になるわ。」

「分かりました。

準備をしてきますね。」

少し、引っかかるところがあったが、楽しみの方が勝ったようだ。

そのまま自分の部屋へと急ぐ。

だから、母の小さなつぶやきに、全く気づかなかった。

「神様…どうかあの子をお守りください。」