だんだんと、水の中が赤くなっていく。

もう夕方だ。

姉達は、とても綺麗に着飾っている。

長く美しい金髪が揺れ、きらきらと輝く。

綺麗すぎて、みとれてしまうほどに。

笑顔が一際似合っている。

私には、こんな笑顔、できない。

母が、姉達を抱きしめて、何か言っていたが、それは聞き取れなかった。

私は遠巻きにそれを見て、いつものように、作り笑いを浮かべた。

その醜い笑顔を貼り付けたまま、姉達のもとへ泳いでいく。

「2人とも、気をつけてね!

お話、楽しみにしてるから。」

「もちろんよ。

ちょっと緊張してきちゃった。」

カレンが、笑顔で返してくれる。

「カレン、時間。」

マリアが、いつもと同じ、淡々とした口調で呼ぶ。

「うん!行ってくるね、リン。」

「いってらっしゃい。」

ひらひらと手を振った。

ふたり並んで泳いでいく。

その後ろ姿を、虚ろな目で眺めていた。

…私も、あんな幸せな笑顔、作れるのかな?

2人は、上へ上へと上がっていく。

そして、しばらくして、2人達の姿は見えなくなった。

両親は、「先に帰ってるね。」と言って、すぐ帰ってしまった。

私は、2人のあがって行った道筋を見つめていた。

私のついた、小さなため息が、泡となって、姉達と同じ道筋を進む。

手を伸ばすと、泡がわれて、小さくなる。

真上を見ると、夕日が眩しくて、ぎゅっと目を閉じた。

チカチカとまぶたの裏に光が点滅する。

「何やってんだろ…」

そう呟いて、踵を返した。

静かな海。

儀式の後だから、魚もいない。

「♪♪♪」

どこかで聞いた歌を口ずさむ。

小さい時から、歌は好きだ。

姉達と歌ったり、寂しい時に小さな声で口ずさんで。

今、きっと私は寂しいんだ。

悲しい、静かなメロディー。

そういえば、母から聞いた海の上の世界には、『雨』というものがあるらしい。

空はいつも青いらしいが、雨が降ると、黒く染まるのだそうだ。

私は、それを聞いた時、

「空って泣くの?」

と、聞いた。

母は、

「空はね、悲しくて泣くんじゃないの。」

そう答えてくれたっけ。

その時の私には全くわからなかったけど。

でも、私もいつか泣く時がきたら、大切な人のために泣きたい。

でも、私に、そんな時はくるの?

この歌は、『雨』に似ている。

長くて、終わりが無い。

それでいて、冷たくて、暖かい。

そんな歌。

歌い終えると、家が見えてきた。

家の前で、1度深呼吸をする。

ぎゅっと目を閉じて、口角を上げる。

大丈夫、大丈夫。

目を開けて、スッと息を吸い込む。

そして、

「ただいま!」

大きな声で不安を消す。

そのまま、まっすぐ、泳いでいく。