2つ上の姉が15歳の誕生日を迎えた。

私には2人の姉がいて、彼女達は双子だ。

そのためだろう。

私だけ一人ぼっちのような気がして、その日は姉たちの誕生日を祝う気がしなかった。

そんなのわがままだとわかってはいたけど、はしゃいでいる姉達を見るのは辛い。

唇をかんで、その場から逃げ出す。

自然と向かっていたのは、いつも3人で遊でいた沈没船。

ここも、今となっては懐かしい。

鬼ごっこをしたり、宝探しをしたり、魚達と泳いだり…。

簡単にいってしまえば、私達だけの秘密基地。

でも、いつしかここは、私だけの唯一安心できる場所になっていた。

その頃、姉達は2人だけで遊ぶようになったのだ。

母は

「双子なのだから、気が合うのでしょう。妹も遊んで欲しいものね。でも、どうしようもできないの。」

そう言って、いつも私を抱きしめた。

これはあとから知ったのだが、人魚の同性の双子は『ひとつの魂がふたつに割れたもの』だそうだ。

だから、双子は2人でひとつ。

つまり、私の入る隙なんてない。

それに加え、姉は2人ともそっくりな顔立ちだ。

母似のエメラルドグリーンの瞳に、父似の綺麗な金髪。

それに比べ、私は父と同じ深い青の瞳で、髪は母の淡い桃色。

顔も性格も私は姉達と全然違う。

2人はどちらかというと、父似で、凛とした顔立ちだ。

性格はハッキリしていて、リーダーシップもある。

私はというと、母似だ。

性格はあまり明るくなくて、おとなしい性格だと思う。

いつも2人の姉に隠れていた。

正反対、と言っても過言ではない。

どうして、私は…いつも独りなの?

友達が欲しくても、近くに人魚がいるのかさえわからない。

遠くに行こうにも、私にはその勇気がないし、そもそも両親が許さないだろう。

沈没船の壊れた窓から外に出ると、そこには美しい景色が広がっていた。

…ここもよく、3人で見たのに。

今は…全てが幻のようで……。

「どうしたの?」

突然の呼びかけに、飛び上がってしまった。

恐る恐る振り返ると、そこには、赤い瞳が印象的な、綺麗な女性がいた。

「ビックリさせてごめんなさい。ここ、私の家なの。」

「えっ!ご、ごめんなさい。数年前までここで遊んでいたので…。」

彼女は静かに微笑し、

「あぁ、あの可愛い3人のうちのひとりね?最近、金髪のふたりは見てないけど。」

「すいません!貴女のお家だったなんて…」

「そんなに謝らないで?私も貴女達を見るのが楽しみだったの。私はミーシャ。よろしくね?」

「…私はリン…です。」

「リンちゃん…可愛い声ね。」

その言葉と表情に、悪寒が走った。

赤く引き込まれそうな瞳は、僅かな妖気をたたえ…

思わず後ずさりすると、

「あら、そんなに怯えなくていいのよ?」

彼女は少し困ったような顔をした。

「私はね、魔法が使えるの。俗に言う魔女ね。」

ま…じょ?魔法が使えるって?嘘…。

「困ったことがあったら、いつでも来ていいわよ。
・・・
2年後、楽しみにしてるわ。」

そう言い残して、彼女は消えた。

溶けた、という方が正しいかもしれない。

あたりを見回しても、どこにも姿は見えない。

はっと後ろを振り返ると、今までいたはずの魚達もいなくなっていた。

何も音は聞こえない。

ただ、自分の荒い息遣いと、だんだん高まっていく鼓動が聞こえた。