「シエル?」
「……これ…何ですか?」
「え?体温計だけど」
「……体温計…?」
「……もしかして初めて見た?」
「はい……家にこんなのなかったので」
“家”
シエルの口から出てきた単語にわたしは飛びついた。
「シエル、家あるの?」
「……あります」
「家族は?」
「…………」
「シエル?」
「……何でもないです。父と母がいます」
間は何だったのだろう?
でもわたしはシエルの口から出た家族の単語に驚いた。
「シエルにはお父さんとお母さんがいるの?」
「います……」
両親がいるのなら、シエルが施設に入る必要などない。
家族の元に帰れば良いのだ。
「シエル家はどこ?住所教えてくれる?」
内線電話でお父様にかけようとしたわたしはシエルに尋ねた。
家に帰りたいのであれば、引き止める権利などわたしにはないから。



