「……けほっ、…ドク、さん」



プーセの持つ月の真珠が偽装か本物か考えていると。

シエルの弱々しい声が聞こえ、振り向くと上体を起こしているところだった。



「シエル、まだ起きちゃ駄目よ」

「……見てほしいもの、あるんです……っ」



わたしはベッドに座り、シエルの背中を押さえ支える。

シエルは自由になった両手で、スポンッと、髪の毛に隠していたものを抜いた。



「……これは…」




シエルがドクに渡したもの…それは月の真珠と思われるネックレス。

受け取ったドクは、まじまじ見つめていた。




「それが……本物かどうか、わかりませんけど……」

「……これを、どこで」

「施設の、園長が……亡くなるときに、渡してくれて。
僕が、施設に行った時、身に着けていたものだって」



シエルは途切れながら言うと、ドクから再びネックレスを受け取った。



「でもっ……言わないでください…」

「どうしてですか?
これをイヴェール様に見せたら……」

「イヴェール様は、プーセさんが持っていた月の真珠を、本物だと言いました。
今更見せることなんて、出来ませんっ……こほこほっ」



月の真珠の持ち主、エテ・リュンヌ王妃と親友だったお母様が、プーセの持っていた月の真珠を本物だと言った。

偽装だと言われてしまうのは…こっちだ。



「っ、けほけほっ、こほっ」

「シエル、横になっていよう?起こしているの辛いでしょ」

「そんなのよりっ…けほっ、僕は…エル様から離れるのが辛い…」



シエルはわたしにもたれて目を閉じる。

息も荒くて、話すのでさえも辛いはずなのに、シエルは話す。




「元々、プーセさんの言う通り、貧乏人な僕は、最初から勝ち目なんてなかった。
でも、出会って、しまったから。

大事な人が、たったひとりでも存在して、
たったひとりでも、僕に生きてと言ってくれる人に、出会ってしまったから。

だから少しでも……あなたの役に立ちたくて。
あなたの願うことを、全て叶えたくて。

無茶だって、無理だって、不可能だって知っていた。
でも、諦めたくなかった……。

好きだから……エル様のことが、大好きだから…」




シエルは目を開け、わたしを見上げる。




「幸せになってください、エル様。
あなたの幸せが、僕にとっての幸せです。

傍にいられなくなっても、僕は、あなたの傍にいます」



シエルはそこで話し疲れたのか眠りに落ちる。

息は荒いけど、すっきりとした寝顔に、わたしは逆に辛くなる。



「……どうしてわたしたちは、結ばれないんだろうね。
結ばれない運命になっちゃったんだろうね、シエル。

結ばれないなら、最初から会わせないでほしかったよ……!」



わたしに出会わなければ、シエルは今だって自分自身を否定して傷つけ続けていたと思う。

でも、結ばれないのに出会わせるなんて、誰だか知らないけど残酷すぎる。

こんな運命、わたしはいらなかった。