心に届く歌






飽きずにシエルの寝顔を見つめて約30分後。

時計を見て7時半ちょっとすぎを長針がさしているのを見て、わたしは欠伸をする。



「……んっ…」



シエルの目が開く。

短いけど、だいぶ長く眠るようになった。



「シエル……熱上がったかな」



手をずっと繋いでいたからわからなかったけど、シエルの顔は赤くて息も荒い。

苦しそうに浅く呼吸をしていて、目も潤んでいた。



「ドク呼ぼうか」

「……え、……エル……様…」

「ん?どうした?」

「……熱い…」

「ドク呼んで、解熱剤の点滴とかしてもらった方が良いよ。
冷たくしたタオルも持ってきてもらおうか」

「んんっ……熱いっ…」



わたしの手を痛いほど握ったシエルは、空いている手でワイシャツのボタンに手をかける。

執事服のまま階段から落ちたらしいシエルは、ジャケットだけ脱いだ状態でベッドの上に寝ていた。



「ちょっ……シエル?」

「熱いっ……苦しっ…」



荒く息を吐きながら、シエルはゆっくりワイシャツの白いボタンを上から順に外していく。

浮かび上がった鎖骨が見えたところで、わたしは我に返った。



「シエル、熱いからって脱いじゃ駄目……!」

「やっ……ぁっ……熱いっ…」



焦るわたしの声を聞かず、シエルはボタンを外し、お腹が見える所まで外した。

そしてわたしが慌てているうちに、ワイシャツのボタンを全部外し、脱いだワイシャツをベッドから投げた。



「熱いっ……熱いっ…」

「ちょっ……シエルっ……」



布団も放り投げ、上半身裸でベッドへ倒れ込むシエル。

今すぐドクを呼び、この状況を……じゃなくて熱をどうにかしてもらいたかったけど、

シエルが痛いほど手を握っているので、内線電話まで手が届かない。




「シエルっ……お願い、手、離してっ……」

「駄目っ……熱いからっ……」

「熱いから手を離して!内線電話でドク呼ぶから!
そうしたら熱さなくなるから!」

「やだっ……」




シエルは上体を起こし、わたしの繋いでいる腕を両手で掴んだ。

縋るように、ぎゅっと。



「行かないでっ……ひとりにしないでっ…」

「シエル……」

「ボク良い子にしているから……ひとりにしないでよぉっ……」



ボク良い子にしているから。

それは、シエルが警察に連れて行かれる両親に言っていた言葉。

まさか……わたしと両親が混同している?

そう思ったけど……次の言葉で違うことがわかった。



「エル様お願いっ……行かないでっ…」

「シエル……」

「あなたに置いて行かれたらっ……僕死に」

「シエルっ!」



わたしはシエルの異常なほど火照った頬に、空いた片手で触れた。




「死にたいなんて言わないで。
どこにも行かないから、シエルをひとりにしないから、死にたいなんて言わないで」

「エル様っ……」

「シエルはひとりじゃない。わたしがいるよ」



ぼろぼろと涙が溢れる。

熱のせいで情緒が不安定になっている。

風邪を引くと不安になるけど、シエルの場合その不安が大きすぎるんだ。



「大丈夫。泣かないでシエル」

「……エル様」



シエルは自分の頬に当たるわたしの腕を掴むと。



「きゃっ!」



自分の方へ引き寄せ、同時にシングルベッドにわたしと一緒に倒れ込んだ。

壁際に横になるシエルが、もうすぐで落っこちそうだったわたしを落とさないよう手を握っている。



「……好きです」

「シエル……?」

「あなたが好きです……誰にも渡したくないっ…」



涙で潤んだ瞳で、わたしをジッと見つめてきたシエルは。



「「…………」」



躊躇いもなく、わたしの唇を自分ので塞いだ。

わたしのファーストキスを、シエルは奪っていった。