「♪
太陽と月が巡り合う時
そこに生まれるのは優しさ
この歌が国中に響きますように
光と闇が見合わせる時
そこに生まれるのは未来
♪」
いつの間にか口ずさんでいた、新しい歌詞。
僕に何か変化が会った時、歌詞は思い出すらしい。
「……誰が僕に、この歌を教えたんだろう…」
遠い記憶の彼方で、誰かが歌っている。
もやがかかってよく聞こえないけど、確かに歌っている。
どこかを真っ直ぐ見つめながら。
「……はぁ…現実、受け止めなくちゃ」
「おい」
溜息をつき立ち上がった時、聞こえた低い声。
反射的に振り向くと、そこには彼が立っていた。
「……プーセさん…」
「見たぞ新聞記事。2位とか偉そうにしやがって」
煙草を口の端に咥えながら、舌打ちをするプーセ・クザンさん。
今日も高級そうなスーツを身につけ、金髪はツンツン立っている。
「俺はちなみに受けていねぇからな。
面倒しかねぇよあんなの」
「…………何か、御用ですか」
「あの女いるか?俺の婚約者」
……何故だろう。
プーセさんの口から『婚約者』という言葉が発せられるだけで、酷くイライラする。
同時に、超えられない壁を教えてもらっているようで、悔しくもなる。
僕は一体いつから、こんなにもあの方を愛しく思ってしまったのだろうか。
「……エル様に、何か御用ですか」
「御用も何も、子ども作りに来たんだ」
「…愛情がないご両親の姿を見ても、お子様は喜ばないかと」
「ガキのことなんて知ったことか」
ぎゅっと拳を握る。
煙草を見ているのだって嫌だし、何よりエル様を大事にしていないプーセさんが嫌でしょうがない。
プーセさんと付き合っても、きっとエル様は幸せになれない。
だけど、それを言う権利なんて僕に存在しない。
「……お願いします、プーセ様」
「お?」
「エル様を、幸せにしてください」
「……はぁ?」
「お願いします。エル様のことを、幸せにしてください。
わたくしではエル様を幸せにすることなど出来ません。
プーセ様には、エル様を幸せにする権利があります」
プーセさんは僕を見下ろしながら、新しい煙草を用意する。
今まで吸っていた煙草は、お屋敷の廊下に足で押しつけた。
「何?……お前、俺の婚約者のこと、好きなの?」
「俺の婚約者、ではありません。
ちゃんと、エル様というお名前があるのですから、そう呼んでください」
「…………お前、エルのこと好きなのか」
エル様が呼び捨てにされる。
どうしようもなく辛いけど…言う権利なんてないんだ。
「好きなのは当たり前でしょう。
わたくしは、エル様の執事でございますから」
執事としか金輪際名乗れない。
決して、エル様の隣には並べない。
いつだって、斜め後ろから見守るしかないんだ。
「男としてはどうも思っていないわけ?」
「はい。
素敵な方だとは思いますが、わたくしは執事であり村出身。
次期国王様であるエル様とは、並ぶことは出来ません」
「………ふーん」
プーセさんは、これが僕の嘘だとわかっているのだろうか?
「わたくしは、エル様の幸せを願っております。
ですが、エル様を幸せにするのはわたくしではない。
婚約者であるプーセ様…あなたにはその権利がある」
「…………」
「お願い致しますプーセ様。
何でも致しますから、エル様を幸せにしてください」
何度傷ついても良い。
何度苦しんでも辛くても良い。
エル様の笑顔が守れて、幸せなら……。
「……じゃ、お前から言ってくれねぇ?」
「え?」
「何でもするって言ったよな?
じゃあお前から言えよ。
エルに、子ども作れって」
「……っ」
「この間も拒否しやがって。
挙句の果てお前に殴られるし」
「…………」
「お前から言え。子ども作れって」
「…………」
「お前が言ってエルが了承すれば、俺はエル一筋になって女遊びは止めてやる」
「……え?」
「お前が言う通り、エルを幸せにする」
……信じて、良いのだろうか。
半信半疑だったけど、僕は頷いた。
「……わかりました、言います」
ただ、ただ……あなたの幸せを願っていたい。



