「……ふぁ…」
聞こえた小さな欠伸に、わたしは顔を上げ、少しこぼれてしまった涙を拭いた。
シエルは前髪を揺らしつつ目を開け、ゆっくり上体を起こした。
「おはようございます……。
ごめんなさい、寝てしまって」
「ううん良いの。良く眠れたかしら?」
「はい」
シエルはわたしを、ジッと見つめてきた。
ぱちぱち瞬きをしているのか、前髪が風もないのに何度も揺れている。
「……エル様、どうされました?」
「え?」
「何かありました?」
「何でもないけど?」
嘘をついた。
だってこの恋心(キモチ)は、バレちゃいけないから。
「……泣きました?」
「え?」
「泣きましたか?エル様」
シエルは前髪を少しだけ上げ、遮断せずにわたしを見つめる。
シエルの黒目にわたしが映る。
「……横、いっても良いですか」
「え?」
「失礼致しますね」
シエルは膝にかかっていた薄い布団を丁寧に折り畳み、ソファーの上に置くと、
立ち上がってわたしの隣に腰を下ろした。
かなり近くて、それはもう服同士が衣擦れを起こすほど。
心拍数が徐々に上がって行くのがわかる。
「涙、拭いたでしょう。跡残ってますよ」
「え?」
「涙って、結構バレやすいんですよ。
こすったら跡残りますし、跡残さないためにこすり過ぎても赤くなってわかりますし」
「……何それ、経験談?」
「はい。
だからずっと、僕は泣かなかったんですよ。
涙は弱みだと言われてきましたからね。
でも、あなたに会ってからは泣いてばかりで恥ずかしいです」
「ふふ。
良いのに、泣いても。恥ずかしがらないで」
「……その言葉、そっくりそのままお返し致しますよ」
「え?」
「泣いて良いんですよ、エル様。我慢なさらないで」
シエルは何かを探すように目を泳がせ、わたしの手を弱く握ってきた。
シエルのぬくもりが、じわじわと伝わってくる。
ふと、最初触れた時、シエルの手が凍えるように冷たかったのを思い出す。
高熱だったのに、豪雨の中倒れていたから。
こんなにもあたたかい手を持つようになったのだろう?



