わたしはドクがいなくなり、そっとベッドに近寄った。

わたしがいつも眠っていたベッドには、あの少年が眠っている。

熱が高く衰弱が激しいため、わたしが雨の中見つけた日から1週間はこうして眠っている。

時折高熱によりうなされているのを見て、わたしはすごく苦しくなっていた。



わたしはそっと、布団から出ていた彼の手を握った。

思わず手を離してしまうような高い温度。

わたしの肌を通してわたしの全身に伝わり、じわりと暑くなる。

それでもわたしは、彼の手を離そうとしなかった。





☆☆☆





1週間前の豪雨のあの日。

わたしは急いで倒れて反応のない彼を抱き上げ、車に戻った。

普通女は男を抱き上げることは出来ないと思うけど、それが出来てしまうほど彼は軽かった。

わたしがお屋敷で見たあの痩せ細ったように見えた手足は、本当に酷く痩せ細っていたのだ。




見ず知らずの少年を抱き上げ走って来たわたしを、運転手は驚いていたけど。

すぐに少年の様子が可笑しいことに気付き、車に常備してあるという毛布などを彼に掛けてくれた。

車内を真冬でもないのにガンガンに温め、汗をかき出したころ、車はドクの診療所に到着した。

車内でドクに至急診てもらいたい人がいると言っておいたお蔭で、ドクはすぐに少年を診てくれた。

その間に運転手はお父様を置いてきたティラン伯爵のお屋敷に戻って行った。





わたしはもう営業の終了したドクの診療所で、廊下の椅子に座り待っていた。

あの額から流れていた血。

調べればきっとあの地下空間に溜まっていた血と同じかもしれない。





あのお屋敷の地下で何があったのか。

何故メイドと執事集団は『楽しい』だの『面白かった』だの言っていたのか。

想像すればするほど怖くなったので、わたしは途中で想像するのを止めた。

ひたすら、あの少年が無事であることを祈った。