「……シエル様?」
「ドクさん!」
風で閉じかけている扉を支え、ドクさんが手にタオルを持ったまま首を傾げている。
僕は中に入って鍵をかけた。
「ごめんなさい。あまりにも夕焼けが綺麗で」
「謝ることはないですよ。
自然を綺麗だと思うのは当然の思いでございます」
「……そう言ってもらえると嬉しいです」
上手く笑えない僕に対し、ドクさんは柔らかく微笑むと、
白衣のポケットからふたつ折りの紙を取り出した。
「どうぞ」
「え?」
「お嬢様から渡してほしいと頼まれているものです」
「エル様から……?」
僕は受け取り、恐る恐る紙を開いた。
【Dearシエル
アンスと出掛けてくるわね。
シエル、話してくれてありがとう。
辛いはずなのに話してくれて嬉しかったよ。
これからも、辛いことは抱え込まないで、わたしに言ってね。
わたしじゃなくても、同性のアンスにも気軽に話すのよ。
シエルが今まで辛いことを経験してきた分、
幸せになれるようわたしは願っているからね。
Fromエル】
「……エル様…」
村の学校にいた時、習った単語。
Dearは親愛なる、という意味があるって。
「……ありがとう、エル様。
僕は、あなたの傍で、幸せになりたいっ……」
いつか家で観た、幸せそうなエル様の姿。
僕も、あんな風に幸せになりたい。
誰かと一緒に、幸せになりたい。
生きたい。……あなたと一緒に。



