「でもその傷だらけの男性、良い人なのね」
「え?」
「シエルとどんな関係か知らないけど、幸せにしてくださいって。
よっぽど優しい他人か、身内じゃないとそんなこと言えなくない?」
「……」
「会ってみたかったわね、シエル」
僕は無言でこくりと頷いた。
会いたかった。
そうしたら…僕をきっと、救ってくれたはずだって。
「そういえばシエル、今日は寮に戻らなくて良いわよ」
「え?」
「今日もわたしの部屋にいなさい。良いわね」
「ど、どうしてですか?
昨日、あんなに夜中起こして迷惑かけたのに」
怖くて目を瞑れなかった僕に、エル様は優しく声をかけてくれた。
1日だけでも迷惑をかけて嫌だったのに、今日もだなんて。
「シエル、わかっているでしょう?
ひとりにしないでって言っていたことも、ひとりにしたら自分がどうなるかも」
「……」
「昨日の状態は、きっと今日も続く。
それとも、あなたまた手首切るつもり?」
「……っ」
「今のシエルには、誰かが隣にいなくちゃ駄目。
シエルの隣に並ぶのは、主であるわたしでしょう?」
「…良いの、ですか」
「駄目だったらわたしから誘ったりしないわ。
わたしの隣にいなさい、シエル」
僕は頷いた。
どんなに冷たく、真っ暗で寂しい夜でも大丈夫。
エル様が、隣にいてくれるのなら。