「…っ、やだっ……」
あのパンは何度も見たことがある。
この家でご飯といえば、あのパンだった。
賞味期限が切れた、世間からイラナイと言われたパン。
空腹であのパンを食べ、何度お腹を壊したことか。
トイレに行かせてもらえず、ずっとこの部屋でお腹を押さえて耐えたのは、
この家での出来事の中で1位2位を争えるほどの辛い出来事だった。
パンが鍵となったのか、色々と思い出してきた。
教育、優しさ、愛情。
偽りの言葉でカバーされてきた暴力の数々を。
殴られたり蹴られたりするのは日常茶飯事。
体中にいつだって痣があり、隠していたけどそれが体育の時間バレ、僕はいじめの対象になった。
『親にいじめられているのなら、おれらがいじめても良い』
リーダー格の男はそう言って、僕を殴ってきた。
ノール村はいつだって寒い。
夜、外に放り投げられ、極寒の中朝まで過ごさせるには格好の場所。
寒くて寒くて、出来る限り体温を逃がさないよう、体を丸めて耐えていた。
よく凍死しなかったな、と今では驚く出来事のひとつだ。
僕が退学するきっかけとなった、煙草。
義父はお酒は何十杯も飲むし煙草は何十本も吸う。
酔っぱらった義父は、笑いながら僕に煙草を当て、何度も火傷させた。
それがフラッシュバックされ、僕は学校で反撃し、退学になった。
『キミには守る親がいないから、退学になっても良いよね』
担任と校長は笑いながら、僕に自主退学の紙を書かせた。
「…ふざけんなっ……」
…何だよ。
何だよ。
俺、いつだって『イラナイ奴』じゃねぇか。
俺を必要とする奴も愛する奴も、いない。
俺はいつだって、『世間様』の厄介者、邪魔者だった。



