「いつしか……考えるようになるの。
自分の生きている理由が知りたいって。
生きているって実感したいって。
今はストレス発散道具として生きていたんだって理由を知っているけど、
当時はわからなくって。
気付いたら、家にあったカッターとかナイフとか取り出して、自分のこと傷つけることで気を紛らわせてた。
生きているんだ、存在しているんだってわかってた」
シエルは涙を拭わないまま、左手首の包帯を外し始める。
かなり頑丈に巻かれているようだった。
「切り傷から、エル様とドクさん、わかったみたい。
僕がずっと自分を傷つけて逃げ道を作っていたこと。
もう2度と切らないよう、こうやって強く包帯巻いてくれたの」
スルスルと林檎の皮のように包帯がベッドの上落ちる。
だいぶ長い包帯に隠されていたのは、我が目を疑うほどの深い切り傷だった。
今でも血が滲み、何度も切り刻んだことがわかった。
「ごめんね、変なもの見せて。
巻き直さないと、エル様とドクさんのこと心配させちゃう」
「……貸せ。俺が巻く」
包帯を受け取り、ぐるぐると何重にも巻きつけた。
長い包帯には、エルちゃんとドクさんの“切らないでほしい”という願いが込められているように感じた。
巻き終えると、シエルは再び口を開く。
「それからも色々あったんだけど、僕一時期ティラン伯爵様の元で働いていたんだ」
「ティラン伯爵様の……?」
中心街で、いや…ソレイユ王国全体で知らない者はいないとされているティラン伯爵様。
そこで働いていたというシエルは、相当な実力者だ。
「そこで、僕……色々やらかしちゃって、クビになっちゃって。
それを助けてくれたのが、エル様なんだ」
「それでエルちゃんと……」
「エル様は僕に優しくしてくれるし、
ドクさんは僕の体調をしっかり管理してくれる。
貧血だって言われたのも、助けてもらって初めて気付いた」
つまり、シエルはそれまで貧血の症状があったものの、貧血だと知らなかった。
もしそれが本当なら、悲惨な状況でシエルが育ってきたとわかる。



