アヤカはいなくなった。



 僕の心をかき乱すだけ乱して、一冊の本を置いて、消えてしまった。



 僕は必死でアヤカを探し求めた。



 軽音サークルのメンバーに聞いても、大学の在籍名簿を引っ張り出し、「アヤカ」という名前の生徒に片っ端から会いに行ったが、なぜか「アヤカ」には出会えなかった。



 アヤカは僕に嘘をついたのだ。軽音サークルに入っていること、大学生であること、そして、「アヤカ」という名前だということを。



 それは僕自身もわかっていたことだった。アヤカは「アヤカ」ではない。僕が彼女を「アヤカ」と呼んだからアヤカは「アヤカ」になっただけだ。


 
 今思うと、本当に馬鹿々々しい。まるでそれは、SNSで使うハンドル名を付けていたようなもので、その時点で、僕はアヤカのことを信用していなかった。



 心は確かにあった。アヤカは確かに僕の心の中で生きていた。その確かさえも、アヤカがいなくなった今、どうしても疑ってしまう。



 アヤカは最後まで僕のことを愛してくれた。涙を流して僕に惚れてよかったと言ってくれた。こんなにも愛してくれたのに、僕はなかなかその愛に答えることが出来なかった。