僕はなるべくアヤカの邪魔をしないように、家にいる時間を極力減らした。講義がない時は、朝からギターケースを担いで電車に乗り、京都のホテルでもらったモーリスのフォークギターをサークルの友人に自慢した。



 それがきっかけで、ジャズをやるようになり、トロンボーンやサックスを吹く仲間とセッションをするようになった。ジャズは僕の理想とする自由な音楽の象徴で、もっと早く出会っていればよかったと後悔するほど、魅力的だった。セッションが終われば、みんなで呑みに行き、メンバーもみんなジャズには素人だったこともあり、各々、雑誌や本で勉強して、意見交換したり、いいレコードがあるとそれを共有し合ったり、サークル本来の活動になっていた。



 練習がないときは、カフェでコーヒーを飲みながら本を読んで過ごした。



 ケルアックの影響で、海外文学ばかり読んでいた僕だが、アヤカの影響のせいか、どうせなら日本文学にも手を出してみたいと思うようになり、手始めに都幾川美花のミステリーを読んでみた。それからミステリー繋がりで小早川祈念も読んでみたが、どこか物足りず、最終的にはカフカやゲーテ、ケルアックに戻ってきてしまう。



 やはり、素晴らしいものに一回出会うと、どうしても霞んでしまうのだろうと思う。