それから僕たちは清水寺を後にし、三年坂を転ばないように降りた。三年坂で転ぶと、三年で死ぬという言い伝えがあるらしい。



 途中、アヤカが僕を押したり、押し返したりとふざけたが、そのおかげか、ちょうど坂の途中で生八ツ橋を売っている土産屋を見つけた。



 赤い布が敷かれた縁台に二人並んで座り、店員さんが出してくれた試食を食べながら熱いお茶を飲んだ。お茶には詳しくないので、緑茶なのか、煎茶なのか、ほうじ茶なのかはわからない。ただこの夏目前の暑い時期にしては美味しかった。目で見て楽しむ、雰囲気で楽しむ。より一層お茶が美味しくなる。



「そういえば、八ツ橋と生八ツ橋の違いってなんだろうね。」



「硬いか軟らかいかの違いじゃないか?」



 僕たちの浅はかな考察を傍で聞いていた店主のおじさんが打破してくれた。



「あれはねー、焼いとるか蒸しとるかの違いなんですわ。焼いたら八ツ橋で、蒸したら生八ツ橋。筝の第一人者と言われとる八橋検校ゆう人の死を偲んで、八ツ橋になったと言われてはります。」



「ソウ?」アヤカが首を傾げた。



「筝は、コトとも言わはります。」



「ああ、琴かあ。」



 僕は生八ツ橋をほんのちょっと温くなったお茶で流し込んだ。僕には少し甘すぎる味だったが、たまにはこういうゆったりと時間が過ぎていくのもいいと思った。