アヤカは窓外の景色をまるで子供のように楽しんでいた。



 時々、僕の肩を揺すって「ほら、京都タワー!」とか「ほら、人力車!」とか言って、鴨川に差し掛かった時なんて、まるで気が狂ったようにロンドンタクシーを揺らした。これには運転手も苦笑いで、これほど恥ずかしかった体験を他に知らない。



 スーツケースを置いて行こうということになり、僕たちは一旦、ホテルにチェックインした。小さなホテルで、部屋は和室。旅館の雰囲気が漂うこじんまりとした感じだった。テーブルとブラウン管のテレビがあるだけで、僕の部屋よりも質素だったと言えば想像しやすいかもしれない。物欲がほとんどない僕でも、これにはさすがに拍子抜けした。アヤカならもっといいホテルを予約するものだと思っていたのだ。



「これも節約よ。それに、豪華だと落ち着かないじゃない?」



 それならロンドンタクシーなんて使わないで、電車で済ませばよかったんじゃないだろうか。まったく、男と女のお金の価値観はこれほどまでに違うものなのか。いや、これはアヤカのお金に対する価値観が特殊なだけなのかもしれない。