何やら不快な夢を見ていた。それはそれは酷く気持ち悪い夢で、目を覚ますと僕は真っ先に自分の身体を確認した。そして、何事もなかったことに安心し、ふと隣を見た。アヤカが布団から半分ほど顔を出し、僕の方をじっと見ていた。



「虫になったと思った?」



 それには答えず、僕はアヤカに背を向け横になった。その背中にアヤカが両手を添えてきた。



「あなたってやっぱり馴れているのね。女性とベッドを共有しているにもかかわらず、あなたってば、ぐっすり寝ているんだもの。本当は私に魅力がないんじゃないかって心配になったりもしたけど、それが紳士ってものよね。私はなかなか寝付けなかったわ。好きな人の鼓動を近くに感じて眠るのは初めてだったから。」



 僕は寝返りを打ってアヤカを見た。顔が近くなり左目の下にうっすらと黒子があるのを確認できた。



 それから二度寝を諦め、身体を起こしながら、考えた。



 アヤカとは音楽の趣味も文学の趣味も多分合うだろう。僕の周りでグリーン・デイを聴いたり、カフカを読んでいる人を他に知らない。



 そりゃ○○だとか、○○だの、○○くらいは周りにも何人か読んでいる人はいた。○○もいたかもしれない。ただ、彼らに共通するのは有名中の有名であるということだ。(注:作家の名誉を守るためにいずれも○○と表すが、実のところ、僕なんかが見下したところで彼らには何ら影響はないだろうが……。)



 それにも関わらず、アヤカは楽器を弾けない。この1点のみが僕を現実世界へと結ぶ1本の蜘蛛の糸といったところだろう。トラがバターになるような世界だったとしても、その場でアヤカにストラトを渡せばそれで十分だった。



 まったく、ヴォネガットが生きていたらアヤカという女性をどう描いただろうか。